『日経エコロジー』2001年10月号 雑誌記事より転載(P.70~P.73)
| テーマ:実例に学ぶ利益がでるISO14001活用術 | ||
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執筆者紹介 | 村上 治(むらかみ おさむ)氏 三和総合研究所マネジメントシステム部長。ISOにいち早く着目し、1991年4月よりISOの導入支援を開始。国内外でのコンサルティング経験が豊富。JRCA、IRCAの登録主任審査員。 |
| 烏谷 克幸(とりたに かつゆき)氏 三和総合研究所マネジメントシステムチーフコンサルタント。環境、品質、労働安全や、それらの統合マネジメント・システム構築を通し、経営活性化をめざすコンサルティングを実施。JRCA、IRCAの登録主任審査員。 |
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| ※記事の掲載については、日経BP社、執筆者より許可を得ています | ||
| 統合マネジメントの構築で事業を包括した経営システムに | ||||||||||||||||||||||||||
| マネジメントの国際規格は、環境や品質だけではない。労働安全衛生、情報セキュリティー管理なども普及し始めた。これらを統合して、全事業領域を網羅するシステムを構築すれば、利益を引き出すための選択肢を広げることができ、効果的だ。運用や文書類の共通化が、管理負担を下げるためのカギになる。 | ||||||||||||||||||||||||||
| 文/ 村上 治 三和総合研究所マネジメントシステム部長 ・ 烏谷 克幸 同チーフコンサルタント 「多くの統合マネジメントシステム導入企業を審査したが、複数のマネジメントシステムをこれほど見事に統合している企業はなかった」。今年7月、登録審査の終了ミーティングでの主任審査員のコメントに、田中建設(青森県十和田市)で品質および環境の管理責任者を務める夏目正己常務は、思わず右手を握りしめた。 IS014001の認証活動を進めるにあたって、先行して認証を取得した品質に関する国際規格の定着活動や新人事制度の導入で管理負担が増えてきたため、新たな負担増を極力抑えるように田中陽一社長から厳命されていたからだ。 夏目常務は、建設業では、環境だけではなく安全も不可欠だとの意識が強く、「環境と労働安全衛生という2つの国際規格の認証を同時に取得しよう」と判断していた。 環境の規格はもちろんIS014001。 労働安全衛生がOHSAS18001。 先行取得していた品質はIS09001だ。 3規格以外にも情報セキュリティー管理、個人情報保護、リスクマネジメントなどの国際規格がある。2つ以上のマネジメントシステムの認証を取得する企業も増えている。しかし、こうした企業では、それぞれ別のシステムとして維持管理している例が多い。そのなかで管理負担の増加を極力抑えた、田中建設の統合マネジメントシステムに、主任審査員は感心したのである。 それぞれの規格の共通部分を統合して無駄をなくすとともに、相乗効果によって各規格のメリットの拡大を狙ったマネジメントシステムを「統合マネジメントシステム」と呼び、我々は広く普及を呼びかけている。 田中建設は、昨年2月にIS09001の認証を取得。その仕組みを生かして、ISO14001、OHSAS18001を加えた3つの国際規格を満足する統合マネジメントシステムを構築している。青森県の企業としては初めて、3規格の認証を取得する見込みだ。 同社では、その効果を最大にするために、本社や建設現場だけでなく、県内外の3営業所を含めた全部門で、同一のマネジメントシステムを導入している。 統合マネジメントは事業との一体化を促進する 3規格は同じ原則に基づいており、IS014001には「統合マネジメントを阻むものではない」と記載されている。しかし、複数認証取得に積極的な建設業や製造業では、ISO14001は環境部門、IS09001は品質保証部門、OHSAS18001は労働安全部門など別組織で管理され、多重管理の負担を強いられていることが多い。 ISO14001の認証取得範囲は、基本的には企業の裁量で設定できる。しかし、これまで指摘してきたように、製造部門やサービス部門に限定し、事業の中核である設計部門や企画部門などを除外して認証を取得しても、効果は限定されてしまう。 この考え方は、環境だけに限らない。顧客満足の継続的な改善を狙うIS09001でも、設計、調達、製造、物流、販売からアフターサービスやメンテナンスまで、事業全体でみなければあまり意味がない。労働安全衛生のOHSAS18001も同様である。 我々がコンサルティングをする際、マネジメントシステムの統合だけでなく、認証取得範囲を事業に関連する全部門とすることも推奨している。 無駄のない仕組みづくりに加えて、各マネジメントシステムの相乗効果をあげるためには、自社事業と一致させることが肝要だからだ。 統合マネジメントシステムとすることで、システムと事業の一体化を促す効果もある。個々のマネジメントシステムでは、事業の一部しか対象とならない場合もあるが、環境、品質、労働安全衛生のいずれとも関係しない事業活動はほとんどない。 このため、統合マネジメントシステムは事業全体を包括したものであることが基本原則となるからだ。 「IS09001の認証取得に2年もかかった。社員に疲弊感もある。このうえISO14001にチャレンジするのは大変」との声も多いが、これは誤解だ。適切な品質マネジメントシステムが構築されていれば、ほかの規格の認証取得は約半分の手間で済むことが多い。同様に効果的なIS014001を構築した企業であれば、IS09001やOHSAS18001に、容易に取り組むことができるだろう。 3つのスデップが重要 まず事前調査の充実を 利益を引き出す統合マネジメントシステムの実現には事前調査から始まる3つのステップが重要である。 連載の2回目で、利益を出す環境マネジメントシステム構築のポイントとして、適切な初期環境レビューが必要であることを紹介した。初期環境レビューとは、組織の活動や、提供する製品・サービスが与える環境影響の原因となる環境側面を、漏れなく抽出する事前調査のことだ。この際、業務フロー図などを用いながら・システマチックに行うことがポイントであると指摘した。 統合マネジメントシステムの場合は・ISO14001が対象としてしている環境影響だけでなく、顧客満足や顧客期待を実現する業務改善ポイント(IS09001)や、労働安全衛生面でのリスク(OHSAS18001:ただし組織の活動のみ)を調査対象として、一括して抽出するとよい。その際「環境・品質・安全面でプラスになる手段や原因」として、「プラスの側面」を意識して取り上げることを忘れてはならない。 たとえば田中建設は、事前調査で、切り立った斜面の土砂崩れを防止するために、土壌菌を岩盤に吹き付ける土壌菌工法をプラスの側面として着目した。施工後、草が根を張ることで斜面の強度が高まって落石防止が図れる。斜面は草で覆われるため、景観確保による顧客満足の向上と環境保全を同時に実現できる。さらに、コンクリートで覆う従来工法では、リスクの高い高所作業が多かったが、土壌菌工法を採用すると、高所作業を減らせる。安全を含めれば三重の「プラスの側面」になる。 事前調査の実施にあたっては、既存の労働安全衛生管理手法や、マーケティングリサーチなどの結果を活用するとよい。実施期間や調査分析工数を削減できるからだ。
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| 環境、品質、安全の3分野で担当書の協力態勢を確立 事前調査が終了し、統合マネジメントシステムの構築段階になると、プロジェクトメンバーの連携が重要となる。これが2番目のステップだ。 まず環境、品質、労働安全衛生の担当者をメンバーに加えて協力態勢を築く。すでにいずれかのマネジメントシステムを導入済みの企業であれば、その担当者や事務局をメンバーに含める。 統合マネジメントシステムの構築は、各種マニュアルやフローチャートの作成といった文書化作業を通して実施する。その際、要求事項を満たすことだけを考えるのではなく、現在の業務方法や業務慣行が要求事項のどれに相当するのかを割り当てていくとよい。たとえば社内LANがあれば、LANの活用を前提として、「承認」「配布」「最新版管理」などの「文書管理」の要求事項を満たす方法を考えるのがポイントだ。 各マネジメントシステムの中核となるのが、「環境マニュアル」「品質マニュアル」「労働安全衛生マニュアル」である。統合マネジメントシステムだからといって、マニュアル類を無理に統合する必要はないだろう。 これに対して、社員が日常業務として使用する各プロセスの手順書や規定・帳票類などの文書は、共有化が不可欠だ。それぞれの規格で、要求事項のタイトルが同じ「教育訓練」「文書管理」「記録管理」「内部監査」「是正・予防処置」などは、それぞれ一つの規定や手順書にまとめるとよい。各規格の文末には要求事項の対比表が添付されているので、共有化する際に参考となる。この際、それぞれの規格の要求事項にはわずかな違いがあるが、厳しい要求事項に統一した方が、結局はメリットが多い。 これに加えて、環境配慮設計・安全配慮設計を含めた設計管理、運用管理、検査、施工計画書などの計画書や帳票類も、プロジェクトメンバーが調整しながら、それぞれ1つの文書にまとめる。これは統合マネジメントシステムの最大ポイントといっても過言ではない。環境、品質、安全の3つの文書を個別に把握、確認することを現場に求めると、本業の業務に支障をきたしてしまう。 なお、それぞれの手順に対しては、同一文書のなかで【環】【品】【安】などのマークを付けて識別できるようにしておくと、内部監査や外部審査にスムーズに対応できるだろう。 |
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| 経営文書に組み込み効果の視点を加える 最終ステップは統合マネジメントシステムの運用である。これには3つのポイントがある。 まず、継続的改善の原動力となるそれぞれの目標(ISO14001の場合は目的・目標)や実行計画書に相当するマネジメントプログラム類を、1つの帳票にまとめることだ。そのうえで「200X年度経営計画書」とし、ほかの経営文書と同一に扱う。ISOに基づくマネジメントシステムは、経営から遊離すると形骸化し、効果が限定される。経営計画と一体化することで、形骸化の問題を避けることができる。 2つ目は、統合マネジメントにかかわる購買、運用管理、検査試験などは、各規格の要求を一括して盛り込んで実施することだ。せっかく文書類を共有化しても、実際の業務を別に行ったのでは本末転倒だ。 田中建設でも管理書類の統合化や実際業務への組み込みが図られた結果、労働安全衛生リスクを格段に低減できたとしている。統合マネジメントシステムには、安全リスクの管理が組み込まれているので、導入後は各部門長や現場責任者が自発的に安全マネジメントを実施するようになったからだという。 3つ目のポイントは、経営者、管理者から担当者まで、すべての社員がそれぞれのマネジメントシステムの経営的意義を自覚することだ。そのうえで外部審査対応のみを意識した「規格のルール通りか」だけでなく、自社の業務として「効果的か」を、常に意識して運用することである。 最後に、統合マネジメントシステムを導入する際の基本的な考え方をまとめておく。第1に、相乗効果によって、異なる目的の規格から得られる利益の一層の拡大を目指すこと。 2つ目は、複数の規格を運用する際に、共有化により管理負担を極小化することである。導入を計画している方は、まずこの2点を明確に意識していただきたいと思う。 田中建設は過去7年間、着実に完成工事高を積み増してきた。1994年度は青森県で8位だったが、2000年度には3位になった。統合マネジメントシステムも、この成長を支える要因の1つなのである。 |
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